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ヒア アフター

ヒアアフター監督:クリント・イーストウッド/ユナイテッドシネマとしまえん/★4(80点)本家公式サイト

確実に、そして当然とも言えるイーストウッドの変化。まるで村上春樹みたいな話だ。
前作『インビクタス』を観ていないので正確なことは言えないのだが、『グラン・トリノ』で役者クリント・イーストウッドを殺してから、映画監督クリント・イーストウッドにはいくつかの変化が見られるように思える。

星条旗を描き続ける作家=クリント・イーストウッド。
彼は常にアメリカを描き続けてきた。時に現在の、時に過去の、アメリカの希望を、あるいは恥部を描いてきた。
しかし本作は違う。パリやロンドンが舞台になっているという意味ではない。本作はアメリカでなくとも成立する話なのだ。おそらく南アを舞台にした前作も同様なのだろう、“アメリカ”を描写する映画ではないのだ。
むしろ、アメリカという“世界”から別の“世界”へ目を転じたと言った方がいいのかもしれない。

別の世界へ目を転じたと言えば、本作では、『グラン・トリノ』で役者クリント・イーストウッドの“肉体”を抹殺したことにより、“精神”世界に目を転じたとも解釈できる。
いやまあ、随分前から死生観みたいなものはチョイチョイ出してたけどね。

そしてもう一つ。「世界はつながっている」。これはダーティー・ハリー=クリント・イーストウッドに無かった世界観だ。

村上春樹はしばしば(常に?)「アッチの世界」と「コッチの世界」がつながっている話を書いている。
黒沢清やアンドレイ・タルコフスキーの映画も同様だ。
一口に「つながっている」と言っても、侵食される場合もあればナカタさんが石を持ち上げる場合もある。
いずれにせよ、「これが原因だ!」「だからこうなった!」といった明確な形での接続ではない。
「どうやら世界はつながっているらしい」という描き方で、ある意味宗教的な神秘でありながら、決して宗教臭くないという点が共通している。

今回、イーストウッドはそうした神秘世界を持ち出してきた。踏み込んだと言ってもいい。
『ペイルライダー』はあったものの、ほとんど初めてに近いことではないだろうか。
それをどう解釈するかは人それぞれだが、なによりもこの年になって次々と新しい試みをする姿勢はすごいと思う。

一時期私は「何をやりたいのか分からない時がある」とイーストウッド映画を非難していたこともあったのだが、この映画はよく分かる。
アッチの世界もコッチの世界も、何か眼に見えない形で、なんとなく世界はつながっているのだ。私はそう思う。

余談

あのスマトラ沖地震に伴う大津波は、職場の先輩が体験してて、波にのまれて足を骨折だがアキレス腱切っただかしたんだよ。
この映画のように彼の中で何かが変わった・・・ようには見えず、事故前も事故後も残念ながらボンクラのまま。そもそもいい年こいたオッサンが南の島に一人で旅行って何してたんだよ。

日本公開2月19日(2010年 ワーナー)

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