ファーストショットが − ラストショットと同一でその意味する所(観客に与える印象)が全然違うという見事な映画的仕掛け − もう何だかとっても映画的で、そこからハート鷲掴みされたんです。ふわっと振り返るロザムンド・パイクの顔を画面いっぱいに映し出し「うわー、俺いま映画観てる!」って気にさせてくれる。ちょっとゴダールの『軽蔑』も想起させる。冒頭から見事な映画。
えーっと、ここから本筋と関係ないことを延々語りますよ。しかもヒドいネタバレだから、未見の人は絶対に読まないでね。
ロザムンドのシャワーシーンで、血が流れこむ排水口を一瞬写しますね。これはきっと『サイコ』を意識したショットだと思うんです。だって、全然必要ないカットなんですもの、それはもうワザとやってるとしか思えない。
それで確信したのですが、この映画、あちこちに“ヒッチコックの香り”をふりまいているように見えるのです。
女が逃げこむ先がモーテルであることは『サイコ』ですし、女が髪の色を変えて別人になるのは『めまい』です。そもそもロザムンド・パイクがヒッチ先生好みのブロンド美人だし。
いやもう、この話の基本プロットそのものが『めまい』の本歌取りなんですよ。
実際フィンチャーは、『パニック・ルーム』のオープニングで『北北西に進路を取れ』をやって、そのプロットで『裏窓』の本歌取りしたことがありますしね。
これはね、模倣やパロディーではなく、オマージュでもなく、再構築なんですよ。
何を感心したって、ミステリー(正しくはサスペンスか)がこんなにも進化しているということ。
内田樹先生によれば、村上春樹「羊をめぐる冒険」はレイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」の本歌取りで、その「ロング・グッドバイ」はスコット・フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の本歌取りで、「ギャツビー」はアラン・フルニエの「ル・グラン・モーヌ」の本歌取りだということなのですが、こういう形で“進化”していくんですね。
この映画は、ヒッチコック・サスペンスの進化系なのです。ま、『ゾディアック』でも同じようなことを書きましたけどね。
最近の映画界や音楽界はリメイクやカヴァーが流行っていますが、それが主流になると先細りすると思うんです。
フィンチャー(あるいは脚本も兼ねた原作者)みたいな“進化させる才能”がもっと出てこないと。
日本公開2014年12月12日(2014年 米)
comments