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テリー・ギリアムのドン・キホーテ



ギリアムの『8 1/2』。ギリアムの人生がオーバーラップするからこそ逆に、観る者は迷宮から現実に引き戻されてしまう。
監督:テリー・ギリアム/TOHOシネマズ シャンテ/★3(65点)本家公式サイト
 
ウチのヨメに言わせれば「昔特大満塁ホームランを見ちゃったからすごい気がしてるけど実は打率低くね?」でおなじみテリー・ギリアム。
本作はフェリーニ『8 1/2』の如く、映像クリエイターが苦悩し、悪夢のような迷宮を彷徨う様を描きます。ギリアム作品の主人公はいつも迷宮を彷徨ってる。

ところが本作の主人公は、浮浪者でもジャンキーでもほら吹き男爵でも情報局の職員でもなく、映像クリエイター(映画じゃなくてCM監督だけど)という、ギリアム作品にしては珍しくギリアム自身に近い設定なのです。

そんな設定で、構想30年だ企画頓挫9回だ(公式サイトから)言われたら、この悪夢迷宮を彷徨う主人公にギリアムが重なっちゃうわけじゃないですか。
ポケットいっぱいの金貨が偽物だったクダリなんか、プロデューサーの金出す金出す詐欺に何度も騙されているギリアムの実話ですよ。劇中「CG嫌い」って言っちゃうし。

そう考えると「ギリアム自身がこの映画を作るために悪夢のような迷宮を彷徨った」という話であり、「ギリアム自身がドン・キホーテ」という話なのです。
そして、「映画監督って罪深い」という反省映画にも見えてくるのです。

劇中のジョナサン・プライスはアダム・ドライバーのせいでドン・キホーテに取り憑かれてしまいます。元は善良な靴職人だったのに。その昔は善良な情報局職員だったのに。
町娘アンジェリカもまた、女優という「ドン・キホーテ」に取り憑かれてしまうのです。アダム・ドライバーのせいで。悪い奴だ。でも仕方ないよね、ダーク・ジェダイだから。つまり、映画監督はダーク・ジェダイだという話なのです(<あながち嘘じゃない)。

そして何より、テリー・ギリアム自身がドン・キホーテに取り憑かれてしまったことを我々は知っています。
テリー・ギリアム79歳。構想30年ということは49歳時の発案。『ロスト・イン・ラマンチャ』だって2002年、ギリアム61歳。
自分で言うのもナンだけど、最近、年齢による衰えを感じるせいか、監督の年齢にうるさくなったんだよね。つまり、40歳・50歳代の身体的&精神的“体力”と、70歳代(しかも後半)のそれとはだいぶ違うと思うんです。なんなら描きたいものだって変わってくるでしょう。
別に映画が年寄り臭かったわけではありません。言われなければお爺ちゃん監督だなんて誰も気付かないでしょう。でも30年だよ。その時産まれた子がもうアラサー。確実に変化があるのです。

私がこの映画で感じたのは、テリー・ギリアムの執念や情熱ではなく、大人としての「常識」と「反省」でした。そんなのギリアムじゃないやい。

30年前に撮れていれば、ギリアムが周囲を振り回す「情熱」が感じられたかもしれません。宣伝文句にあるように「狂気の世界」だったかもしれません。
でも、時間と年齢と何回もの頓挫を経て、上述したように「俺のせいで皆をダークサイドに堕としてしまった」映画になってしまったのです。
多様な人種や宗教を持ち出すものの得意の風刺までは至らず、ギリアムらしからぬ無難にまとめられた話に見えるのです。

おそらく、ギリアムの情熱はドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャに対してではなく、乗りかかった巨大船の運航に消費されてしまったのでしょう。「三振かホームランか」のバッターが右狙いのチーム・バッティングをせざるを得なかったのです。

「映画史上に残るカルトか、それとも稀代の傑作か。」なんて宣伝文句で煽ってますけどね。「バトル・オブ・ブラジル」はもう遠い昔なんです。
私も「そんなのギリアムじゃないやい」と書いたものの、ギリアムももういい大人なんですよ。てゆーか、爺さんなんですよ。



日本公開2020年1月24日(2018年/スペイン=ベルギー=仏=英=ポルトガル)

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