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ロマンスドール



まるでO・ヘンリー短編の日活ロマンポルノ仕立て。誰かきたろうに賞をあげて!きたろうを絶賛して!

監督:タナダユキ/渋谷HUMAXシネマ/★5(90点)本家公式サイト
タナダユキ作品を観るのは『ロマンス』以来だし、その監督作を多く観ているわけではないのですが、私はタナダユキを「いい奴だ」と勝手に評しています。いい人でもいい方でもない(いいオンナなのかもしれないけど)。「いい奴」。分かるかな?この感じ。

日本の女性映画監督も多くなってきて、私の好きな監督を挙げるなら、西川美和は「才媛」、横浜聡子は「天然」、そしてタナダユキは「いい奴」と評しています。いや、その人自身はどうだか全然知りませんけどね、あくまでその作品の印象から。あ、あと最近だと、山戸結希は「おんな大林宣彦」。

タナダユキは主人公に(特に女性に)「脆い自我」を与える傾向があるように思います。外敵と戦う話ではなく、自我を巡って自分自身と向き合う内省的な話が多い。
そして(男の私から見たら)「異性の視点」であることは間違いないんだけど、女性女性している感じもしない。
私(男)にはない視点に敬服しつつ、内省的な主人公にタナダユキ自身を勝手に重ねて、女性女性していないから「お前、いい奴だな」って肩を組みたくなっちゃう。いや、俺、誰かと肩なんか組みませんけどね。そーゆーの嫌いだから。
才媛・西川美和は脆くないんですよ。こっちが恐縮しちゃうほどカッチリしている。横浜聡子は脆さとかそういう次元じゃない。男とか女とか超越して、この世とあの世の境をフワフワ歩いているみたい。

この映画、いい話なんです。まるでO・ヘンリー。
いや、O・ヘンリーなんて「最後の一葉」と「賢者の贈り物」くらいしか知らないし、いい話というより、コーヒーが冷めただのかけそばがどうしたというのと同類の「偽善的に満ちた鼻白むファンタジー」だと私は思っているんですが、この映画に関してはそういう嫌味で言ってるんじゃありません。本当に良質のファンタジーだと思う。
そしてそれが「偽善的な鼻白む話」に堕ちなかった理由は、エロ話で展開したことだと思うんです。
私は「日活ロマンポルノ仕立て」と評しましたが、それは決して「エロ見せ興業」を目的としたものではなく、人間ドラマとしての「日活ロマンポルノ仕立て」。
実はこの辺も「脆い」んですよ。全部間違って逆に転んだら「偽善的で鼻白むエロ見せ興業」、例えるなら「こっちはエロ目的で観てんのに取って付けの安いドラマなんかいらねーんだよ。早送りするぞゴラァ!」という「セクシー女優主演のエロドラマ(AVではない)」みたいになっていたかもしれないのです。てゆーか、あのAVじゃないエロドラマってどこにニーズがあるんだろう?

そうならなかったのは、「脆い自我」を見事に演じた役者陣による所が大きい。
高橋一生も良かった。蒼井優先生は別格だった。
「この男にはもったいないと言われるくらい評判の奥さん」だけど「男にとっては少し重い女」感を、何気ない笑顔一つに全部内包するんですよ。全然わざとらしくなく。地味だけど凄い。もうね、蒼井優先生と安藤サクラは人間国宝にしたらいい。

そして、きたろう。シティボーイズね。
ワンカットの長台詞は、タナダユキキャラ「脆い自我」が全部詰め込まれていて、それを語る年齢を重ねたきたろうの表情が実にいい。
私の中では今年の最優秀助演男優賞決定(もう?)。誰かもっと絶賛してあげて。

ファンタジーなんですよ。でも役者はリアルなんです。そのリアルとファンタジーの絶妙なさじ加減は、まさにラブドールと同じ。
これが、「乳がんで」「あの乳房が」みたいな展開だったら鼻白んでたかもしれない。そういうタナダユキのやり過ぎない謙虚さも好き。



2020年1月24日公開(2019年/日)

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